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衝撃を感じたその出会い
最後に、この旅行の目的と直接リンクするものではないのだが、ある一人の女性との出会いに触れないわけにはいかないだろう(と言っても、ロマンチックなそれとは違いますよ)。
斉藤光恵さん、80歳(旅行時)。この旅行でご一緒したツアーの一員で、当時は確かにこの年齢ながら7月14日生まれとうかがったので、この記事の目に触れる時点では81歳になられているハズだ。成田空港の集合カウンターでその姿を認めたときには、少し驚いた部分もあった。こう言っては失礼ながら、参加者の中でも一際目立つお姿だった。「誰か息子さんか何かと一緒に参加しているのだろう」と考えていたのだが、ひとり旅だと聞いてのけぞったのだ。
今回の旅行は、季節が良かったのかどうか参加者が計39人と多きにわたり、少々ウンザリした気持ちもあった。実際、いくつかのトラブルがあったりして、必ずしも順調一本ではない旅だったものが、この斉藤さんという方の存在で救ってもらった部分がかなりあったことを強調しておきたい。私にとっても非常に興味深い方だったし、その言動には教えられることが多かったのである。
自分の興味が高じて、1時間以上も生い立ち等を伺った斉藤さん。紙幅の関係で詳細は紹介できないが、ザッとその歩みを振り返っておこう。
群馬県高崎市に生まれ、地元の女学校を出た斉藤さんは衛生研究所と呼ばれる、今でいうと保健衛生短大のような場所で2年間学んだ。その後、群馬県庁を振り出しにほどなく東京都に就職。昭和20年代の中ごろに東京に移り住み、以来60歳の少し手前まで管理栄養士として保健所等で働いた。
いわば、保健衛生の最先端で働いていた斉藤さんだが、旅行への情熱をかき立てられたのは48歳のときに初めて訪れたヨーロッパだったという。9カ国17都市という当時としてもかなりな“強行軍”だったというが、各都市の美しさに魅せられた旅だった。そして、定年後からはご主人の他界もあって一人で頻繁に海外に出歩くようになったというわけだ。
ご本人もよく覚えていないというこれまでの旅行歴は優に30回以上。ヨーロッパはもちろんだが、アメリカの2回、中国5回、昨年(06年)は念願だったカンボジア・アンコールワットも訪れた。好きだというヨーロッパに至っては、北欧諸国以外はすべての国に訪れたというのであるから恐れ入る。この間、友人と連れ立ってポルトガル、フランス等の4カ月に及ぶ長期滞在も2度ほど経験しているという。
海外ひとり旅も何回か行っているという斉藤さんについて、書くべき“勇姿”はいくつもあるような気がするが、ここではその海外旅行歴を語ることが本意ではない。やはり、外国に行って、かつ自らを振り返る貴重な経験を重ねていると思える、その優美(人間としての品格)な姿に私は感激したことを、ここで記しておきたい。
勇気を与えてくれたその立ち姿
柔らかな物腰。ていねいな言葉遣い。古いタイプ(こう言っては失礼かもしれないが)の女性を感じさせる謙虚な立ち居振る舞い――どれをとっても、上品さを感じさせるものばかりだった。こうした物言いがいいかどうかは分からないが、その辺の若い女性やおばさん連中には、とても及ばないものだと思う。
旅の途中、私がちょっと自分の感じた事物の感想を言うと、「ホント、そうなんですの。あなたのおっしゃるとおりね」と、快活な表情で答えてくれた。その年齢にも拘わらず、足をとられそうな場所や、有名なモン・サン・ミッシェルの石畳の坂を元気に上っていく健脚にも魅せられた。何よりも、オルセーでもマルモッタンでも、ツアー客の先頭に立ってガイドさんの解説を聴くその姿(写真)が素晴らしいと思えたのだった。
一緒に旅を共にしたある若い女性も「素晴らしい女性。ああ、私たちは何でもできるんだなということを感じさせる人ですね」とその感想をもらしてくれた。一緒に景勝の地や美術館を回った多くの同士が、そうやって同じ思いを持ったのではなかったかと思う。
旅行の後半部分でのこと、オプショナルツアーで一緒に訪れたパリ市内の洒落たレストランの思い出。食事のときに私はビール2本を一緒に注文したのだが(1本だと飲んだ気がしなかった)、ごく近くにいた斉藤さんは「私もワインを飲んでみようかしら」とおっしゃる。そして、何ということか、たのんだワインを私にも分けて下さった。
そうした飾らない人柄とさり気のない心遣いが、身に沁み入る方だった。こう言っては失礼だが、齢80歳を過ぎても可愛らしい人というのは、こういう方のことを言うのではないかと思う。
斉藤さんの名台詞(セリフ)を最後に紹介しておきたい。「私は、人生は他人への感謝、謙譲、思いやり――って、この3つだけだと思っていますのよ」。ホントウにそうですね。私も不徳の固まりのような人間ですが、斉藤さんのこのさり気ない言葉を、身に沁みて噛み締めておりますよ。ホントウに、いい機会を与えて下さったことに感謝、感謝……とそれだけの旅行でありました。
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